ダイビングエッセイ
初めての空中遊泳 [ 2003/07 ]

与那国島とは、沖縄県は八重山諸島に属する日本最西端の島である。天気の良い日は台湾が肉眼で確認できるという。海底遺跡や大物の回遊魚に出会うチャンスなど、与那国島は有名なダイビングポイントが多数存在するダイバーにとって憧れの島である。この島に、まだわずか潜水本数10本程度のヒヨっこダイバーがやってきた。しかもボートダイビング「初挑戦」である。無謀である。通常ボートダイビングを行うには、ボートダイビング用のスペシャリティ・カリキュラムを修了しておく必要がある。ところが面倒くさがりやの私はそんなカリキュラムなど取りもせず、何事もぶっつけ本番で行うのだ。
ビーチダイビングとボートダイビングでは何が違うのだろうか。一番違うのは、ビーチダイビングはエントリー後ポイントまで泳いで移動するのに対し、ボートダイビングはエントリーした場所がもうポイントであるという点だろう。移動しなくて良いから非常に楽チンで、エントリーする地点がいきなり水深が10m〜20mなのだ。また、与那国島の海はとてつもなく青で、とてつもなく澄んでいる。ダイバーは海中の視界具合いを表現するのに透明度が○○mという言葉を用いるが、その言葉を借りると透明度は確実に30m〜50mぐらいはあると思われる。伊豆の海を10本程度しか潜ったことの無い男の、初めてのボートダイビングがそんな場所だったのだ。
足を大きく前後に広げ、ジャンプするような姿勢でボートの後ろから勢いよく飛び込んだ。エントリー前はちょっとだけ緊張したが、やってしまえばたいした事は無い。着水時に大量に発生した小さな泡が、私の度付き入りマスク越しの視界を遮った。時間にすればほんの2〜3秒の後、その小さな泡が消え視界が確保できた時、私は息を呑んだ。

「そ、空を飛んでいる!?」

表現すればそんな言葉しか思い浮かばないだろう。透明度50mの海では、たとえ水深が20mあったとしても海底までほとんど視界が遮られないので、まるで水が無いかのような錯覚に陥るのである。地上で20mといえば5階建てビルに相当する高さだ。そんな場所に私は浮いていたので、空を飛んでいるような気分になってしまうのも無理はない。360度見渡しても視界を遮るものは何も無く、ただただ大草原の上空を漂っているような浮遊感。その後マンタを見たり、レアな魚に出会ったりすることはあったけど、ダイビングで感動して涙が出そうになったのは、後にも先にもこの時だけである。
私はそれまで空を飛びたい欲求が強かった訳ではなかった。鳥になりたいと思ったこともないので、突然宙に放られると正直とまどった。エントリー前は「海底で集合」なんてガイドさんに言われていたのに、見たこともない景色に茫然自失しそうになったのである。このインパクトは想像に難しい。
エントリー地点でボケーっとしてると、不審に思ったガイドさんが私のBCDを強く引っ張って海底まで引っ張ってくれた。すいません、お手数をおかけしました。
与那国島にはカメラを持ってもう一度リベンジしたい島である。
この下に海底遺跡があります

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